Share

233話 借用書

last update publish date: 2026-08-25 08:52:25

「これって湊が私たちに音声を聞かせているって事よね?」

そう聞くと遼大が自分のスマホを見ながら言う。

「前に湊くんに渡してあった、ペン型の通信装置からだな」

そう言えば前に愛沢くるみが久遠家の屋敷に何の前触れもなく来た事があって、その時に遼大が湊に何かあった時の為に、と湊にペン型の通信装置を渡してあったのを思い出した。

『あぁ、その件か』

湊の声がそう言う。湊の息遣いまで聞こえて来そうな程、高性能のマイクが音声を拾っている。

『ついさっき、ERで起きた騒ぎを知っているだろう? あれを収めなければならない。主犯の男は警察に引き渡すとしても、原因の究明はしないといけないからな』

湊が努めて冷静にそう言うのが聞こえる。

『だから今は、悪いが空いている時間が無いんだよ』

そう言われた愛沢くるみは何と返すんだろうか、そう思っていると、愛沢くるみの声が聞こえて来る。

『でも私の方もそんなに時間の猶予は無いの』

まぁ、愛沢くるみからしたら、波多野優斗を人質に取られている状況で、お金を渡さないと警察に行くとまで言われているのだから、確かに時間の猶予は無い気がしているだろう。

愛沢くるみを脅している新
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • 跪くのはあなたです 流産の夜、私を選ばなかった夫は五年後、後悔する   262話 空のボトル

    「という事は防護服を着ていなければ、誰しもが漏れる事無く感染している、という事か」賀神さんがそう言う。「あぁ、おそらくそうだろうな」遼大がそう言う。「細菌か、ウィルスか……」遼大はそう呟いて、医師に聞く。「血液検査は?」そう聞かれた医師が言う。「この患者さんの血液は既に検査に回してあります」遼大がERの時計を見上げる。「じゃあ、そろそろ結果が出ている頃合いだな」そう言って遼大は私を見て聞く。「任せても良いか?」そう聞かれて私は頷く。「えぇ、もちろん」遼大は賀神さんを見て言う。「燈のサポートを」そう言って遼大が歩き出す。「原因が分からなければ、手の出しようが無いですね……」賀神さんのそんな声が聞こえていた筈なのに、私は、全く違う事を考えていた。さっきから自分の足元に転がっている空のボトル。それが気になって仕方ない。(大丈夫よ、私は防護服を着ているし、手元も手袋をしている……)そう言い聞かせて私は足元に転がっている空のボトルに手を伸ばす。「佐伯顧問?」賀神さんにそう聞かれて私は一旦、手を止めて、賀神さんを見る。「これ、気になって」私がそう言って指差すと、賀神さんもその空のボトルを見る。「確かに」賀神さんは私が拾おうとするのを制して、手を伸ばす。「待て!!」そんな声が響き渡り、賀神さんが動きを止める。声は隣のベッドからだった。隣のベッドで息を切らしている一人の男性。頸部から胸部に掛けて、酷い紅斑が出ている。賀神さんは眉間に皺を寄せてその男性に聞く。「何か知っているのか?」そう聞くとその男性は息を切らしながら言う。「俺は……騙された、んだ……」私も賀神さんも顔を見合わせて頷き合い、その男性に向き合う。「騙された?」賀神さんがそう聞くとその男性が頷く。「聖カトリーナの……ERに行って、そのボトルの蓋を開けて……転がすだけで良いって……」そう言いながらその男性は天井を仰ぐ。「大金が貰えるって話、だった……」つまり、これは誰かが仕掛けたバイオハザードだという事……そしてそれはおそらく千堂弘の仕業だろう。私は足元に転がっているボトルを見て、言う。「見たところ、中身は入っていないように見えるけれど、何か入っていた?」そうその男性に聞くとその男性が言う。「俺が、手にした時は……中に、透明な液体が入

  • 跪くのはあなたです 流産の夜、私を選ばなかった夫は五年後、後悔する   261話 小爆弾

    遼大が指示を出したEMSO日本支局の人間が聖カトリーナに集結する。「持って来たか?」遼大がそう聞くと遼大の部下のうちの一人が頷く。「EMSOの方で保管、管理していたものをお持ちしました」そう言ってたくさんの機材と荷物を運び込み始める。「これは?」湊がそう聞くと遼大が少し笑う。「陽圧式防護服だよ」遼大はそう言って、湊に更に湊に言う。「湊くんはこのまま聖カトリーナに来ている患者さんたちを外に誘導してくれ。中には俺たちが入る」遼大はそう言って私を見て微笑む。「高嶺さん!」そんな声がして振り向くと、EMSOから加山良江と真壁早妃も来ていたようで、遼大を呼んだのは真壁早妃だった。真壁早妃は遼大の部下の人たちの中から抜け出て、私たちのところまで小走りでやって来る。「バイオハザードだと聞きました……」純粋に心配しているのだろうけれど、遼大を見上げる真壁早妃の瞳に何だか少しだけモヤッとする。見上げている真壁早妃に遼大が表情を変えずに言う。「あぁ、だから防護服を持って来て貰ったが」そう言って遼大は私を見下ろして微笑み、言う。「燈と一緒に入るから大丈夫だ」遼大はそう言って私の頭をポンと撫でて、視線を上げる。「賀神! お前も来るだろう?」視線の先に居た賀神さんは、遼大にそう聞かれニヤッと笑って言う。「当然です」そう言いながら賀神さんは早くも防護服に手を掛けている。「まずは、何が起きているのか、何が原因かを特定しなきゃいけない」遼大はそう言って部下の人たちに言う。「聖カトリーナを封鎖。症状を出ている者を隔離。ロビーを空けるんだ」部下の人たちが遼大の一声で一斉に動き出す。「さぁ、燈、行こうか」遼大はそう言って防護服を手に取る。「えぇ、そうね」◇◇◇防護服を着てERに入る。中はさながら戦場のような状態だった。吐気を訴える人、体中に発疹の出ている者、それを看護する看護師と医師たち。「私はEMSOの責任者、高嶺だ。今からトリアージを開始する。医師も看護師も、自覚症状のある者は患者として扱う。自覚症状の無い者は防護服を着るように」そう言って私たち三人はERの中心部へ行く。その場に看護に当たっていた医師たちと看護師が集まる。「まずは何が起きているのか、教えてくれ」遼大がそう言うと、医師の一人が言う。「私が把握している限り、今、蔓

  • 跪くのはあなたです 流産の夜、私を選ばなかった夫は五年後、後悔する   260話 スタットコール

    ノートPCのキーボードを叩いていた加山良江が不意に言う。「今、ベイサイド・パイロットプラントの情報を聞いて、愛沢くるみのスマホから出ている微弱な電波と照らし合わせてみたんです」そう言って加山良江が顔を上げる。「精密さは欠けますが、大体の位置情報が一致しています」そう言われて私たちは顔を見合わせて頷く。「愛沢くるみはおそらく、ベイサイド・パイロットプラントに居るわね」私がそう言うと、皆が頷く。「敵の位置情報は確定したが」遼大が腕を組み考える。「どうやってそこに踏む込むか、ですね」賀神さんが言う。「千堂家に入った時の爆発だとか、そういうのは理由には出来ないのか?」一条和輝がそう聞く。「まぁ、出来ない事も無いだろうな……そもそも爆発物があったというだけでも、こちらにはかなり有利だ」遼大がそう言い、湊を見る。「湊くん」遼大は湊に言う。「藤堂氏にこの事を報告してくれないか」そう言われて湊が立ち上がる。「分かった、すぐにでも行って来る」湊はそう言って歩き出す。「そうか、藤堂氏なら動かせる……」賀神さんがそう言って少し笑う。「あぁ、そうなんだ。藤堂氏の力があれば、かなりの力を動かせる」遼大がそう言う。湊が部屋を出て行き、私たちはそれぞれ考えを巡らせる。「でも千堂家から逃げ出したのと同じように、ベイサイド・パイロットプラントへの侵入を察知したら千堂弘はまた逃げるかもしれないのよね?」私がそう言うと、遼大も頷く。「そうなんだ、その可能性は高いだろうな」そう言って遼大は加山良江を見る。「加山さん、現状、千堂家が持っているであろう資産状況を洗い出してくれ」そう言って遼大は今度は真壁早妃を見る。「真壁さんも一緒に」そう言われた真壁早妃が頷く。「はい」真壁早妃は立ち上がり、加山良江の居る席へ移動し、加山良江の使っているノートPCと真壁早妃の持っているタブレットを操作し始める。その時だった。けたたましく鳴り始める私のスマホ。私は少し驚いてスマホを取る。みればそれは湊からだった。電話に出る。「もしもし」そう言うと移動中であろう湊が答える。『燈? 悪い、今、聖カトリーナでスタットコールが入った』そう言われて私は驚く。「スタットコール?」私のその言葉を聞き、私の隣に居た遼大も私を見る。『あぁ、そうなんだ。まだ状況

  • 跪くのはあなたです 流産の夜、私を選ばなかった夫は五年後、後悔する   259話 ベイサイド・パイロットプラント

    そう言われた真壁早妃は少し俯き、そして遼大を見ている。遼大は小さく溜息をついて、立ち上がると言う。「真壁さん、この通り、俺は大丈夫。だから戻ってくれ」そう言いながら遼大は両手を広げて見せる。真壁早妃は俯き、そして私たちに背を向ける。一歩前に進んだ彼女は、そのまま踵を返して、また私たちに振り向く。全員が真壁早妃を見る。「あの……」そう言って、手に持ったタブレットを握りしめるようにして声を絞り出す。「高嶺さんたちが何を探っているのか、一応、聞いています。それで……その……」そう言いながら真壁早妃はタブレットを焦るように操作し始める。「開発局で千堂彰の暗号化された残存データを洗い出していた時、薬事監査の裏をかくために作られた不審なダミー資産のファイルを見つけたんです……」真壁早妃の指先が震えているのが分かる。真壁早妃は遼大を見て続ける。「今、データを送ったので、ご確認お願いします」そう言われた遼大は賀神さんを見る。賀神さんが頷いて、自身が持って来ていたタブレットを操作し、確認する。「高嶺」そう言って賀神さんが遼大にタブレットを渡す。遼大はタブレットの画面を見て、少し考える。そして私にタブレットを見せてくれる。そこにあったのは千堂彰の残存データの中に残った、千堂家の査察逃れの為に所有していたとある施設の名前だった。「ベイサイド・パイロットプラント……」私がその施設の名を読むと、湊が少し驚く。「ベイサイド・パイロットプラント?」湊はそう言い、更に言う。「湾岸にある物流倉庫の名前じゃないか」そう言われて私は湊に聞く。「そうなの?」私がそう聞くと、そこで一条和輝が言う。「あぁ、僕も知ってるよ、ベイサイドパイロットプラントって医療系の物流倉庫だよな?」(医療系の物流倉庫……)「でもそこが千堂家の所有だとは知らなかったな」湊がそう言う。「表向き、千堂家の名前を出さない事で、査察逃れに使おうと思っていた、というところか」遼大が考えながらそう言う。「そうかもしれないわね」私がそう言うと遼大がスマホを取り出す。「部下に言って、様子を見させよう」そう言いながら遼大はスマホで電話をかけ始める。私は事態を見つめている真壁早妃に言う。「あなたも座って」そう言うと真壁早妃がホッとしたような顔で、私たちの輪に加わる。まさか真壁早妃が打

  • 跪くのはあなたです 流産の夜、私を選ばなかった夫は五年後、後悔する   258話 退出

    怒涛の如く、色々な事が流れて行く。私と遼大はEMSOに向かいながらしばらくの間、黙っていた。えーと、最初は何だったんだっけ……やっと愛沢くるみの嘘が暴かれて、その証拠も着々と集まり出して。カルテの改ざんの事実も、その証拠が揃って……。新見悟が暴挙に出て、遼大が怪我をして……。そうだ……遼大の腕の怪我……。私はそれを思い出し、遼大を見上げる。「遼大、腕、大丈夫?」そう聞くと遼大が微笑む。「ん? 腕?」そう聞き返した遼大は次の瞬間、思い出したようで笑い出す。「あぁ、大丈夫だよ。燈に言われるまで忘れてたくらいだ」切れ味の良いメスで切られた事で、雑菌なども無く、綺麗に縫合が出来たから、怪我の治りも早いと思うけれど。それでも縫う程の怪我なのだ、痛くない筈が無い。「痛みがあるでしょう?」そう聞くと遼大は怪我をしていない方の手で私の肩を抱き、言う。「大丈夫だよ、今はそれどころじゃないからね」すべてを精神力で乗り越えて行く、そんな遼大は嫌いじゃないけれど、心配だ。遼大に寄りかかりながら私は遼大の胸板に手を当て、言う。「あなたのそういう強いところは好きだけど、無理はしないでね」そう言うと遼大が言う。「燈」呼ばれて遼大を見上げる。「じゃあ、特効薬をくれ」そう言って遼大が微笑む。「特効薬?」そう聞くと遼大が微笑んだまま言う。「あぁ、特別甘いやつを頼む」そう言われて私は笑い、そして少し背を伸ばして言う。「いいわ」私は遼大の首に手を回し、遼大の唇に自分の唇を重ねる。◇◇◇EMSOに到着する。「高嶺! 佐伯顧問!」出迎えてくれた賀神さんが声を掛けて来る。「大丈夫だったか? 爆破がどうのって話を聞いたんだが」そう聞かれて私と遼大は顔を見合わせて笑う。「燈が千堂家の玄関に仕掛けられていたトラップを見抜いてくれたお陰で誰も怪我せずに済んだよ」遼大が少し誇らしげにそう言う。「千堂家の玄関に仕掛けられていたトラップ?」賀神さんがそう聞く。「あぁ、そうなんだ」そう言いながら遼大が歩き出す。「中で話そう。会議室の準備は出来てるな?」そう聞かれた賀神さんが頷く。「あぁ、準備は万全だ」会議室に入り、後続の車を待つ間、私と遼大、そして賀神さんで話を進める。千堂家であった事を話すと賀神さんは苦笑する。「玄関に爆発物か……」そう言

  • 跪くのはあなたです 流産の夜、私を選ばなかった夫は五年後、後悔する   257話 怪物

    「ここにはもう何も無さそうね」私がそう言うと、遼大が少し考える。「千堂弘を知る為に、ここは捜索を継続させるよ」そう言う遼大に頷き、私と遼大はその場を後にする。愛沢くるみのイルミのバッグの中に入っていた紙を遼大が取り出し、歩きながら広げてみる。数枚あった紙の一枚目は誰かのバイタルなどが書かれている。「これ、愛沢くるみの?」私が歩きながらそれを見て、遼大に聞く。遼大もそれを見ながら少し考えて言う。「あぁ、おそらくな」紙をめくる。二枚目にはベンゾジアゼピン系薬品投与後、と書かれている。「愛欲の女王を投与……?」そこでハッとする。「もしかして愛沢くるみは愛欲の女王を直接、体内に流し込まれているの!?」玄関ホールまで来て、振り返る。「あのラボにあったものを調べてくれ」部下の人にそう指示を出し、遼大は堤さんを振り返る。「堤さん、後は、任せても良いですか?」遼大がそう聞くと堤さんは微笑み、そして苦笑する。「えぇ、大丈夫です。後はこちらで色々調べておきます。結果は逐一、報告を」千堂家を出る。あの不気味な彫像がこちらを空虚な目で見ている。◇◇◇車で走り出しながら、私と遼大は愛沢くるみのイルミのバッグの中身を確認していた。愛欲の女王を直接、体内に投与されている可能性……。そう考えると本当にあの千堂弘という人間は狂っているとしか思えない。「愛沢くるみの体内に愛欲の女王が直接、投与された事は確定ね……」私が残された紙を見ながらそう言うと遼大も頷く。「あぁ、そうだろうな」そう言いながら残されたその紙を一緒に見る。「幻覚があると書かれているな」その書き込みを見て、私も頷く。「愛欲の女王に幻覚を見せる作用があるって事よね?」そう聞くと遼大が首を捻る。「そもそも愛欲の女王は香水として作られているからな。ベンゾジアゼピン系物質をそのまま投与する事までは千堂彰でさえやらなかった事だ」私たちは千堂理を診ている。彼もまたベンゾジアゼピン系物質に三年間、侵され続けた結果、ベンゾマスクになっている。それも香水のように上から噴霧されただけで、直接投与された訳じゃない。「どれぐらいの濃度で投与されているか、投与されたその薬品がどれだけ人体に影響があるのか。それが未承認の薬品である以上、検証はされていないからな」遼大にそう言われて私も頷く。「安全

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status